02 池尻の大蛇退治 町の田

更新日:2020年06月25日

其の2●池尻の大蛇退治 ■町の田

昔、むかし大山のある里に年老いた両親と美しい娘が住んでいたそうな。もうすぐ、秋祭り、そのお祭りは、毎年15歳になる前の少女を人身御供(ひとみごくう)に出さんといかんかった。
それまで人ごとやと思うとった人身御供やのに、くじに当たってこの娘がなってしもた。
父も母もたいそう悲しんで、特に母は、どうしても娘の代わりに自分が人身御供になると思いつめたんや。
そこで両親そろうて氏神(うじがみ)さんにお願いに行ったそうや。
娘の方は、降って湧(わ)いた災難に途方にくれ、自分の不幸を嘆(なげ)き、父母の気持ちを思うて深く神に祈りを捧げたそうな。
池尻神社(いけじりじんじゃ)では、神主(かんぬし)が祭りに備えて境内(けいだい)を掃き清めていたんやが、ちょうどそこへ若い武士が参拝に立ち寄ったんや。この武士は、都から来たんやが、氏神のお告げで西国の桜の木の下に住むという娘と結婚するための旅の途中やった。
池尻神社の神様にも聞いてみようと思うて武士は、一心に神様にお祈りをした。そのうち疲れてしもてウトウトとして夢を見たんや。夢の中では人身御供に代わって桜の木があらわれ、神の声が聞こえた。
「邪心(じゃしん)を祓(はら)い、人身御供の娘と夫婦になり、神の恵みを伝えよ。智仁(ちじん)備えし勇者に宝剣(ほうけん)一振りを与える。」
その声とともに宝剣が桜の木の上に降りてきたんや。ハッとして目覚めると桜の木の下に宝剣があった。
「これこそ神の恵み。」と言うて若い武士は、宝剣をおし戴(いただ)いたんや。
お祭の当日になって、人身御供の行事もすんで村人も帰った後、不思議にも草木がざわざわと動揺し、星一つない真っ暗い夜になってしもた。武士は目を光らし、あたりを警戒していた。夜中になって雨も降り出した頃、目をぎらぎらさせ、炎を降らせながらこちらに近づいてくる異様なものがあった。
武士は、「池尻大明神(いけじりだいみょうじん)。」と心に念じて剣を抜いて待っていたんや。雨がさらに激しくなったその時、怪しいものが急に武士に襲いかかった。飛び違い、かいくぐって斬(き)りつけると、剣を恐れて岩に登ろうとしたので、引き下ろし、刺し通して退治してしもた。
その瞬間、空は明るうなって、そこに10メートル余りの大蛇(だいじゃ)が死んどったそうな。
武士は、老夫婦の一人娘と結婚し、村に住みついて、子孫が栄え、村もたいそう繁栄したということや。