03 猟師の弥与門(やえもん)さん 草野

更新日:2020年06月25日

其の3●猟師の弥与門(やえもん)さん ■草野

むかし、昔、丹波の国、多紀の郡草野村(くさのむら)に猪狩り(ししがり)がものすごく上手な弥与門(やえもん)さんという人が住んでいたそうな。
猪は村の人たちが大事に育てとってのお米やら、イモやら、豆やらを食い荒らすさかい、村の人たちはたいそう困っとったんやけど、弥与門さんが、次から次へと猪を退治してくれてのようになってからは、安心して暮らせるようになったそうや。
ある日、猪狩りの上手(うま)い弥与門さんのことを耳にした篠山のお殿様が、ぜひ一度、一緒に狩りをしたいと所望(しょもう)され、摂津(せっつ)の国に近い、草野村の八王子(はちおうじ)の山に来て、狩りをしてのことになったんやて。
弥与門さんは、すぐに召し出されて、猪狩りの打ち合わせをしたそうな。
「猪が出てきても、私が撃てと言うまで、撃ってはなりませぬ。」
とお殿様に申し上げて、狩りの準備にとりかかったんやて。
大勢の勢子(せこ)(獲物を追い出す役をする人)やら、犬が山を囲んで、猪を追い出しにかかったそうや。谷やら、尾根のあっちこっちから、勢子の声やら、ホラ貝を吹く音が響きわたっとったんやて。
そうしょるうちに、近くで犬のけたたましい鳴き声がしたかと思たら、間もなしに、猪を待ちかまえとったったお殿様の前に大きい猪が跳び出してきたんや。
そのとき、すかさず弥与門さんは、「今だ、撃て!」とお殿様の頭を平手で、「パチッ!」とたたいたったそうや。
「ズドーン!」と一発、見事に命中。
「ドッスーン!」と猪はもんどりうって倒れたんやて。
大きい猪の獲物にお殿様は、大喜びになったそうや。そやけどな、その様子を近くで見ておった家来(けらい)やら、見物に来ておった人たちは、「お殿様の頭をたたいたった弥与門さんは、一体どないなるんやろ。」
「えらいことしてしもたな。」と、息をこらして見守っていたそうな。そやけどな、弥与門はお殿様に、「弥与門!でかしたぞ!アッパレ アッパレ。」
と、えらいほめられて、ようけのごほうびをもらったそうな。弥与門さんは、お殿様の寛大なお気持ちに感謝して、それからも一生懸命に狩りに精を出して、幸せに暮らしたったということや。よかった。よかった。