04 弘法大師の水 味間北・南

更新日:2020年06月25日

其の4●弘法大師の水 ■味間北・南

弘法大師(こうぼうだいし)が味間(あじま)にやって来られた時のことです。衣(ころも)は破れ、ひげは伸びほうだいという、見るからに、みすぼらしいお坊さんです。
「ああ、今日もよいお天気じゃ、こんな日和(ひより)続きじゃ百姓が困るわい。」とづやきながら、よぼよぼと歩いていきました。よほど疲れているとみえて、北村までやってきた時、大きなけやきの木陰(こかげ)に腰を下ろして、「ああ、のどが渇(かわ)いた。おばあさんや、まことにすまんが水を一ぱいくださいな。」と、頼みました。見ると、あまりにも乞食姿(こじきすがた)のお坊さんなので、「水かいな。わしの家で使うだけの水で精一杯やで。おまえさんなんかにやる水は、これっぽっちもないわ。」
すげなく断られてしまいましたので、お坊さんはしかたなく味間南(あじまみなみ)をさして歩いていきました。南の川も水はなく、溝もからからになっています。村の入口で、せっせと草刈りをしていたおじいさんに、「すまんが、水を一ぱいだけくださらんかな。」と、頼みました。
「はい、はい。おやすいことで。」
お坊さんは、くみたての水を一ぱいだけもらって、飲み干しましたが、あまりにも冷たい水でしたから、のどがキューと鳴りました。
「ああ、おいしい水じゃ、これで生き返った。どうもありがとう、ありがとう。」
何回も何回もお礼を言いました。そして、山すその草むらに行って、持っていたつえをつきさして、「ここは、きれいな水の湧(わ)くところじゃ、掘ってみなさるがよい。」と言い残して、どこともなく立ち去ってしまいました。
村人たちは、教えられたとおり、みんなで掘ってみますと、コンコンときれいな水が湧き出してきました。
「これはありがたい、ありがたい。でも不思議なお坊さんだ。」
誰もが口をそろえて言いましたが、それが弘法大師だったことは、後(のち)の世になってから分かったのです。
今でも南の部落では、きれいな清水(しみず)が湧き出ていますが、北の住吉川(すみよしがわ)は、雨の降らない限り、いつも水がなく、河原(かわら)の石が白くなっています。