05 ものを言った大魚(たいぎょ) 当野

更新日:2020年06月25日

其の5●ものを言った大魚(たいぎょ) ■当野

当野(とうの)の山頂付近には、いつの時代につくられたか分かりませんが、「新地(しんいけ)」「村池(むらいけ)」など5つ6つの池があります。
その隣の尾根境(おねさかい)である三田(さんだ)の奥山地内にも「金剛寺池(こんごうじいけ)」などと呼ばれる池が数カ所あり、昔はこの山上の池から水を落として、稲を作っていました。この池の水を抜くときは、滝が落ちるようにとても美しい光景だったと言われています。
一方、当野の里には、今も通称「榧(かや)の木」「桃の木」と呼ばれる家があります。
この家と山頂にある池にからんで、こんな話が伝わっています。
昔、むかしのこと、それぞれの池には「主(ぬし)」と言われる生き物が住んでいました。
ある日、魚取りの大好きな村の若者が野を越え、谷を越え、山を越えて大魚(たいぎょ)がいるという池にたどり着き、苦労をしたうえようやく大魚を捕まえました。
満足して思わず、「とうとうやった。早く帰って味噌汁にして食べよう。何人分くらい作れるやろうな。」
と独り言を言いながら喜び勇んで帰る途中、ある池の横を通り過ぎようとした時、「金剛寺さん、金剛寺さんどこへ何をしに行かれるのですか。」
という声が池の中からしてきました。
その時、若者がかかえている大魚が、「当野の榧(かや)の木へ味噌汁を吸いに行く。」と返事をしました。若者の驚きは、腰が抜けるほどで家に帰ってからも2、3日は起き上がれませんでした。
この若者は、榧の木と呼ばれる家の若者であり「金剛寺さん」と呼ばれた大魚は、金剛寺池の主であったようですし、池の中から声をかけたのは、その池の主ではないかと言われています。