06 姫塚の悲恋(ひれん)物語 町の田

更新日:2020年06月25日

其の6●姫塚の悲恋(ひれん)物語 ■町の田

昔、むかし、大山荘追入(おおやまのしょうおいれ)の足入(はしばみ)というところに人に知られた長者(ちょうじゃ)が住んでおったそうな。その地名から足入の長者と呼ばれとった。長者には、一人の可愛(かわい)らしゅうて美しい姫がいたんやが、機織り(はたおり)が得意で、働き者やいうてみんながうわさするほどやった。
ある時、この地方を治めとった国司(こくし)が土地の見巡り(みまわり)に来たんやが、長者の屋敷で休んだんや。長者は、丁寧に接待し、姫にお茶を出させたところ、国司はうわさに勝る美しい姫の姿に強くひかれてしもうた。そこで、自分の館(やかた)に来て仕(つか)えるよう命令して帰っていったそうな。
長者は姫に国司の元へ行くよう話したが、姫にはすでに森本の館(二の宮)に住む水谷刑部(みずたにぎょうぶ)という将来を約束した人がおったんや。しかし、国司に逆ろうては、荘内(しょうない)の人々に困難を与える。権力者には、到底かなわぬと長者は姫によく言い聞かせたそうや。
一方、国司も姫と刑部(ぎょうぶ)の仲に気付き、ある日、刑部を館に呼び出して、湯どので殺してしもうた。数日後、そのことを知った姫は、殺されてしもうた恋人の死を悲しんであの世の幸福を祈るため、京へ逃れる決意をしたんや。
それまで、刑部のために織っていた布を仕上げ、暗くなるのを待って乳母(うば)とともに夜の闇(やみ)に紛(まぎ)れて家を出たんやが、ちょうど、五本松(ごほんまつ)のある町の田(ちょうのた)まで来た時に、追いかけてきた家の人に見つかってしもた。
刑部以外の人のところへは絶対に行かないと心に誓っていた姫は、覚悟を決めて自殺してしもうたんや。
これを知った里の人々は、姫を憐(あわ)れんでその場所に手厚く葬(ほうむ)ったそうや。
後々まで姫塚(ひめづか)として供養(くよう)して、姫の死んだ日が丑(うし)の日やったので、丑の日には機(はた)を織らんかったそうや。後になって、2人のためにそこには、地蔵堂(じぞうどう)が建てられたそうや。