26 北村の薬師様とラッパイチョウ 北

更新日:2020年06月25日

其の二十六●北村の薬師様とラッパイチョウ ■北

城南北の東護山医王寺には、乳の仏様として名高い、薬師如来様がおまつりしてあります。 その昔、激しく泣く赤ん坊を抱いた一人のお母さんがおりました。赤ん坊はお乳ほしさに泣くのですが、とても貧しいお母さんは食べ物も満足に無い有り様で、お乳もでなかったのです。
そこで、どうすることも出来ず、トボトボ歩いて医王寺までやって来ましたが、一本の大きなイチョウの木を見つけ、その根元に赤ん坊を置いて帰ることにしまsた。
数日後、子供恋しさに、思案のあげく、いてもたってもおれない気持ちで置いた場所へ戻ってみますと、意外にも赤ん坊はイチョウの木の根元で元気にほほえんでおりました。
驚いたお母さんは、
「きっとイチョウの木の精が、この子にお乳を与えて下さったのに違いない。」
と思い、イチョウの木にお礼を言って、赤ん坊を抱いて帰ろうとしました。すると、
「イチョウのギンナンを取って食べなさい。そうすれば、きっとお乳がでますから。」
と、どこからともなく声が聞えて来ました。
こうしてお母さんは、お告げのとおり、ギンナンを食べますと、乳がものすごい勢いでほとばしり出てきました。
このことがあってから、うわさは付近に広まり、乳の出が悪い人達が、たくさんお参りに訪れるようになりました。
この薬師様の前の大きなイチョウの木は、葉が丸く、ラッパの形をしており、大変珍しいそうですし、また、乳のしずくとして一石余りの実を落とし、村人を喜ばせているようです。
毎年七月十二日の薬師様のお祭は、郡内三大祭りの1つとして賑わい、各地から人々が集まり、「乳薬師札」をいただいて帰るということです。