28 城跡のイボとり地蔵さん 栗栖野

更新日:2020年06月25日

其の二十八●城跡のイボとり地蔵さん■栗栖野
むかし、むかし、村の若い衆でイボがあちこちに出来て、たいそう困っているものがおりました。
何とか早く、この気持ちの悪いイボがとれないものかと薬をつけたり、神仏に祈ったりしてみるのですが、いっこうに取れる気配がありません。
すっかり、しょげかえっている若い衆の所へ、親切なお年寄りが尋ねてきて話すのには、
「城山にあるお地蔵さまに頼みなはれ。お茶を供え、ローソク、線香を立て、どうかこのイボを取って下さいと一所懸命頼みなはれ。必ず願いはかないますから。」
と、いうのです。
この城山のお地蔵さまとは、栗栖野の若林寺というお寺の西南に位置する栗栖野城跡に立つニ体のお地蔵さまのことで、それはそれは、とてもあらたかなお地蔵さまのことだそうです。
それを聞いた若い衆は、毎日、欠かさず熱いお茶を持って山に登り、お地蔵さまにお詣りをしましたが、イボはとれるどころか何の変りもありません。
とうとう、八日目には、若い衆は山のお地蔵様まで登るのをあきらめてしまいました。
それでも気になり、自分の家からお地蔵さまに向かって、同じようにお茶を供え拝んでおりましたが、四、五日もすると、半ばあきらめてしまい、気のむいたときに山の方を向いて拝むぐらいで、
「やっぱり、そんな上手い話はないわな。」
とすっかりあきらめてしまいました。
それから何年も経ったある日のこと。ふっと気がつくと、イボが無くなっています。
「あっ、イボがない。」
「イボがとれた。」
「昨日は、確かにあったと思うのに。」
とそっと手の甲をつねってみました。
「イタイ。」
やはり夢ではありません。
「かあさん、かあさんや、イボがすっかりなくなった。ありがたい事や、うれしいことや、やっぱりあの地蔵さまのおかげや、ありがたいお地蔵さまや。」
と若い衆は、小躍りして喜びました。
「まあ、ほんとによかったこと、おまえさん。明日の朝、さっそくお礼のお詣りにいきなはれ。この前垂れをお地蔵さまにお供えして、よう拝んできたったらわ。」
「そうや、よい事に気がついたな。さっそく明日の朝早う、願済ましのお詣りに行って来るわ。」
こうして、イボとり地蔵さまのお話は、人から人へ、村から村へ伝えられ、沢山の人がお詣りが続くようになりました。
「イボで悩んでいる人、イボ痔で困っている人は、一度お詣りしなはれや。」
と、話しを聞けば、誰もお詣りしたいものです。
そうこうするうち、このありがたいお地蔵さまに、誰でもたやすくお詣り出来ないものかと人々は、いろいろ相談を始めました。
そして、若林寺の和尚を先達に、城跡のお地蔵さままで登り、
「お地蔵さま、どうか山から寺の庭まで下って頂いて、困っている人を救ってやってください。」
とお願いし、ねんごろにお経をよみ、屈強な若い衆に頼んで、お地蔵さまを寺の庭まで下ろし、安置したそうな。
ところが、その夜、寺の和尚の腰が急に痛くなり動けなくなってしまったそうな。
また、担いで下りた若い衆も同じように腰が痛くて苦しみはじめました。
「これはおかしいぞ。勝手にお地蔵さまの場所を変えたので、怒っておられるのかもしれない。まことに申し訳ないことをした。どうか、お許し下さい。」
と、村人達は、急ぎお地蔵さまを担ぎ上げ、元の位置にお戻しし、ねんごろにお祀りをしたそうな。
するとどうでしょう、二人の腰痛は、けろっと治ったそうです。
「ああ、よかった。よかった。」
と和尚も、村人もたいそう喜んだということです。
今も、ニ体のお地蔵さまは城跡にあり、北東に向かって鎮座されています。