「栗柄(くりから)」

更新日:2020年07月01日

くりからの風景写真

栗柄は、西紀地区で最も標高が高い地域にあり、二つの分水嶺を持っています。一つは鼓峠(標高332m)を下って友渕川(ともぶちがわ)を走り、日本海へ。もう一つは不動の滝を流れて氷上郡に入り竹田川にそそぐルートがあります。不動の滝のすぐ上を走る道路(標高267m)の側溝の水は、ここから日本海と瀬戸内海に分かれていきます。
この場所は丹波大峰(おおみね)といわれる山岳仏教と強い結びつきがあり、修行のための場として不動の滝がありました。
ここには、今も倶利迦羅(くりから)不動明王が祀られています。「栗柄」の地名は、この不動の別名『倶利迦羅』を語源としたと考えられます。
さて、この不動の滝には、竜の昇天(しょうてん)伝説が残されているのです。
『むか-しむかしのことじゃった。坂本の福徳貴寺に、たいへん立派なお坊さんが住んでおられた。ある日のこと、栗柄の滝の宮に参り、お経をあげておられると、一人の少女がどこからともなく現れたのじゃ、「わたしは、このあたりに住んでいるものでございます。
今、お経の声を聞き、ここへ参りました。どうか、ありがたい、ありがたいお経をお聞かせください」
と、頭を地につけてたのんだそうじゃ。お坊さんは、はじめは不思議に思われたが、この少女はきっと、何かの化け物にちがいないと気づかれ、言うとおりに、「それでは、いちばんありがたいお経を上げましょう」と、読経をはじめられたのじゃった。するとまもなく、思ったとおり、少女の姿がばっと消えた。とたんに一面まっくらやみになってしまったのじゃ。しばらくして、滝のほうを見つめると、それはそれは、みごとな竜が、すうっと現れ、「わたしは、この滝に住む竜女(りゅうじょ)。今のお経の力で天に昇れる。ありがたや」といって、三枚のうろこを残し、天に昇っていったということじゃ‥・。』
現在でも、丹波の盆地が霧の海に沈んだとき、いちばん先に霧が晴れるのは、この栗柄地区なのです。二十一世紀の幕開けに、この竜が残していった三枚のうろこを拝見したいものですね。お坊さんが住んでいた坂本の福徳貴寺(ふくとくきじ)には、寺宝として今も伝わっているそうです。

(参照図書) 角川日本地名大辞典、多紀郷土史考、兵庫県学校厚生会発行 「郷土の民話」
兵庫県文化財保護指導委員 大路 靖